詳細設計書はどこまで書くべき?適切な粒度の見極め方と効率的な書き方も

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詳細設計書はどこまで書くべき?適切な粒度の見極め方と効率的な書き方も

詳細設計書を作成する際、多くのエンジニアが直面する悩みがあります。「どこまで詳しく書けばいいのか」「プログラムのコメントレベルまで書くべきか」「図表はどの程度必要か」といった疑問です。

実は、詳細設計書の適切な粒度は一律に決まるものではありません。プロジェクトの規模、開発チームの習熟度、保守運用の要件などによって最適解は変わります。しかし、多くの現場では「とりあえず詳しく書いておけば安心」という考えから、必要以上に細かく書きすぎてしまい、かえって開発効率を落としているケースが少なくありません。

本記事では詳細設計書の適切な粒度を見極める方法と、効率的な作成手法について解説します。単なる理論だけでなく、実際のプロジェクトで使える判断基準と具体例を交えながら、詳細設計書作成の本質に迫ります。

詳細設計書の本来の目的とは?

詳細設計書の適切な粒度を考える前に、まず詳細設計書が何のために存在するのかを明確にしておきましょう。この理解が曖昧なまま作成すると、必要以上に詳しく書いたり、逆に重要な情報が抜けたりする原因になります。

詳細設計書が果たすべき3つの役割

詳細設計書には、主に以下の3つの役割があります。

1. プログラマーへの実装指示書

最も重要な役割は、プログラマーが迷わずに実装できる指示書としての機能です。基本設計で決めた「何を作るか」を、「どのように作るか」に落とし込んだものが詳細設計書です。ただし、プログラミング言語の文法レベルまで指示する必要はありません。実装方針と処理の流れが明確であれば十分です。

2. レビューと品質保証の基準

詳細設計書は、実装前に設計の妥当性を検証するためのレビュー資料としても機能します。設計段階で問題を発見できれば、実装後の手戻りを防げます。また、テスト設計の基準にもなるため、品質保証の観点からも重要な文書です。

3. 保守・改修時の参照資料

システムの保守や改修時に、既存の仕組みを理解するための資料として活用されます。数年後に別のメンバーが見ても理解できる内容であることが求められます。ただし、ソースコードを読めば分かることまで詳細に記載する必要はありません。

よくある誤解:詳細設計書はプログラムの日本語訳ではない

多くの開発現場で見られる誤解として、「詳細設計書はプログラムを日本語で書いたもの」という認識があります。この考え方に基づいて作成すると、以下のような問題が発生します。

  • if文の条件まで事細かに記載し、設計書がプログラムと同じ長さになる
  • 変数名やメソッド名まで詳細に定義し、実装の柔軟性を奪う
  • 設計書の修正に時間がかかり、実装が進まない

実際のところ、詳細設計書に求められるのは「実装の方針と処理の流れ」であり、コードレベルの詳細ではありません。

「書きすぎ」がもたらす3つの弊害

詳細設計書を必要以上に詳しく書くことは、一見すると丁寧で良いことのように思えます。しかし、実際の開発現場では、書きすぎによる弊害の方が大きいケースがほとんどです。

1. 保守性の低下とメンテナンスコストの増大

詳細に書きすぎた設計書は、プログラムの小さな変更でも設計書の大幅な修正が必要になります。例えば、処理の順序を少し変えただけで、シーケンス図から処理フローまですべて書き直しになることもあります。

結果として、次のような問題が発生します。

  • 設計書の修正に時間を取られ、実装が遅れる
  • 修正漏れによる設計書とプログラムの不整合
  • 最終的に設計書が更新されなくなり、形骸化する

2. 実装の創造性と柔軟性の阻害

プログラマーは単なるコーディングマシンではありません。実装段階で、より効率的なアルゴリズムや、保守性の高い設計パターンを思いつくことがあります。しかし、詳細設計書があまりにも細かく規定されていると、このような改善の余地がなくなります。

例えば、ループ処理の実装方法まで詳細に規定されていると、プログラマーはより効率的なStream APIやラムダ式を使った実装を選択できません。結果として、古い実装方法に縛られた非効率なコードが生まれることになります。

3. レビューの形骸化と本質的な議論の欠如

詳細すぎる設計書は、レビューの効率も下げます。100ページを超える設計書のレビューでは、参加者は細かい記述の確認に追われ、設計の本質的な問題を見逃しがちです。

実際のレビューでよく見られる光景として「ここの変数名は小文字で始めるべきでは?」「このif文の条件は逆の方が分かりやすい」といった瑣末な指摘ばかりになり「そもそもこのアーキテクチャで性能要件を満たせるか」「この設計は保守しやすいか」といった本質的な議論がおろそかになります。

適切な粒度を見極める5つの判断基準

では、詳細設計書はどの程度の粒度で書けばよいのでしょうか。以下の5つの判断基準を参考に、プロジェクトごとに最適な粒度を見極めることが重要です。

1. 開発チームのスキルレベル

開発チームのスキルレベルは、詳細設計書の粒度を決める最も重要な要素です。

経験豊富なチームの場合は、以下のような対応で十分です。

  • 処理の概要と入出力仕様があれば実装可能
  • 設計パターンの適用などは実装者の判断に委ねる
  • エラーハンドリングの詳細は共通ルールの参照で十分

一方、経験の浅いメンバーが多い場合は、次のような詳細な記載が必要になります。

  • 主要な処理フローは詳細に記載
  • エラーハンドリングの方針も明記
  • 使用するライブラリやフレームワークの機能も指定

ただし、経験の浅いメンバーに対しても、すべてを詳細に書くのではなく、共通的な処理パターンはサンプルコードや設計規約として別途用意し、詳細設計書では参照するだけにとどめるという工夫も有効です。

2. システムの複雑度と重要度

システムの複雑度や重要度によっても、必要な詳細度は変わります。

複雑度が高い処理については、以下のような詳細な記載が必要です。

  • アルゴリズムの詳細な説明
  • 状態遷移の網羅的な定義
  • 並行処理の同期タイミング

一方、単純なCRUD処理であれば、次のような簡潔な記載で十分です。

  • 基本的な処理フローのみ
  • 詳細はフレームワークの規約に従う旨を記載
  • 特殊な処理のみ補足説明

金融取引のような重要度の高いシステムでは、計算ロジックの詳細な記載が必要ですが、単純な検索画面では項目の対応関係程度で十分です。

3. 保守運用の体制

将来の保守運用体制も考慮する必要があります。

開発チームが保守も担当する場合は、以下のような方針で記載します。

  • 設計の意図と概要を中心に記載
  • 詳細はソースコードのコメントで補完
  • 変更頻度の高い部分は抽象度を上げる

別チームや外部に保守を引き継ぐ場合は、次のような詳細な情報が必要になります。

  • ビジネスロジックの背景も含めて記載
  • 特殊な実装の理由を明記
  • トラブルシューティングの観点も追加

4. 規制やコンプライアンス要件

業界によっては、規制やコンプライアンスの観点から詳細な文書化が求められることがあります。

医療・金融などの規制業界では、以下のような詳細な記載が必要です。

  • 監査対応のため処理ロジックを詳細に記載
  • データフローとアクセス権限を明確化
  • 変更履歴の管理も厳密に実施

一般的な業務システムであれば、次のような記載で十分対応できます。

  • ビジネスロジックの概要レベルで十分
  • セキュリティ要件のみ詳細に記載
  • 個人情報の取り扱い部分は重点的に文書化

5. プロジェクトのフェーズと納期

プロジェクトのフェーズや納期によっても、詳細設計書の作り込み度は調整すべきです。

プロトタイプ開発やPoCフェーズでは、以下のような軽量なアプローチが適しています。

  • 最小限の設計書で素早く実装
  • 実装後に設計書を更新する逆順アプローチ
  • 重要な設計判断のみ記録

本番開発フェーズでは、次のような標準的な対応が必要になります。

  • 標準的な詳細度で作成
  • レビューでの指摘事項を反映
  • 保守に必要な情報を網羅

納期が厳しい場合は、クリティカルパス上の機能から優先的に詳細化し、それ以外は概要レベルにとどめるという戦略的な判断も必要です。

詳細設計書に書くべき内容と書かなくてよい内容

適切な粒度の判断基準を理解したところで、具体的に何を書いて何を書かないべきかを整理します。

必ず書くべき内容

1. 処理の概要と目的

なぜこの処理が必要なのか、何を実現するのかを簡潔に記載します。これは数年後に見返したときにも理解できるよう、ビジネス的な背景も含めて書くことが重要です。

【処理概要】
受注データを基に在庫を引き当て、出荷指示データを作成する。
在庫不足の場合は、バックオーダーとして管理し、入荷時に自動引き当てを行う。

2. 入出力インターフェース

他のモジュールやシステムとの連携部分は詳細に定義します。

【入力】
- 受注データ(受注番号、商品コード、数量、希望納期)
- 在庫マスタ(商品コード、倉庫コード、在庫数)

【出力】
- 出荷指示データ(出荷番号、倉庫コード、商品コード、数量)
- バックオーダーデータ(受注番号、商品コード、不足数量)

3. 主要な処理フロー

正常系の処理の流れを、フローチャートやアクティビティ図で表現します。ただし、すべての分岐を網羅する必要はありません。

4. エラーハンドリングの方針

どのようなエラーが想定され、それぞれどう対処するかの方針を記載します。

【エラーハンドリング方針】
- 在庫不足:バックオーダーとして登録し、処理は継続
- マスタ不整合:エラーログを出力し、該当受注をスキップ
- システムエラー:トランザクションをロールバックし、リトライ処理

5. 性能・セキュリティ要件

特別な性能要件やセキュリティ要件がある場合は明記します。

書かなくてよい内容

1. プログラミング言語固有の実装詳細

変数の型宣言、ループの書き方、例外処理の構文などは不要です。これらはコーディング規約で統一すべき内容です。

2. 単純なCRUD処理の詳細

フレームワークの標準機能で実現できる単純な登録・更新・削除・検索処理は、「フレームワーク標準に従う」という記載で十分です。

3. 画面レイアウトの詳細

画面設計書が別途ある場合、詳細設計書で画面レイアウトまで記載する必要はありません。画面項目とビジネスロジックの関連のみ記載します。

4. ライブラリやフレームワークの使い方

一般的なライブラリの使用方法まで記載する必要はありません。特殊な使い方をする場合のみ、その理由とともに記載します。

グレーゾーンの内容と判断方法

以下の内容は、プロジェクトの状況によって記載の要否が変わります。

1. SQLの詳細

まずは単純なSELECT文について考えてみましょう。基本的にはテーブル名と取得項目のみの記載で十分です。一方、複雑な結合や集計を含む場合は、SQL文そのものを記載する必要があります。パフォーマンスクリティカルな処理については、実行計画も含めて記載することが望ましいでしょう。

2. 外部API連携の詳細

次に外部API連携について見ていきましょう。標準的なREST APIの場合は、エンドポイントとパラメータのみの記載で十分です。しかし、独自プロトコルを使用する場合は、詳細なシーケンスを記載する必要があります。特に認証処理については、セキュリティの観点から詳細に記載することが重要です。

3. バッチ処理のスケジュール

バッチ処理のスケジュールについても、処理の複雑さによって記載レベルを変える必要があります。単純な定期実行であれば実行タイミングのみの記載で十分ですが、複雑な依存関係がある場合はジョブネットの詳細を記載します。リカバリ処理が必要な場合は、異常時の対応手順も含めて記載することが重要です。

効率的な詳細設計書の作成手法

適切な粒度が分かっても、効率的に作成できなければ意味がありません。ここでは、品質を保ちながら効率的に詳細設計書を作成する手法を紹介します。

テンプレートとサンプルの活用

プロジェクト内で共通のテンプレートを用意し、記載レベルを統一します。

効果的なテンプレートを作成するためには、以下の要素を組み込むことが重要です。

  • 必須項目と任意項目の明確化
  • 記載例の提示
  • チェックリストの組み込み

さらに、典型的なパターン(CRUD処理、バッチ処理、API連携など)のサンプル設計書を用意しておくことで、類似機能の設計書作成時間を大幅に短縮できます。

段階的な詳細化アプローチ

すべての機能を同じタイミングで詳細化するのではなく、優先度に応じて段階的に詳細化します。

このアプローチでは、以下のような段階を踏んで進めていきます。

第1段階:スケルトン作成(全機能)

  • 機能一覧と概要
  • 主要な入出力
  • 他機能との関連

第2段階:コア機能の詳細化

  • クリティカルパスの機能
  • 技術的に難易度の高い機能
  • 外部連携機能

第3段階:全機能の詳細化

  • 残りの機能の詳細化
  • 全体整合性の確認
  • レビュー指摘の反映

このアプローチにより、手戻りリスクを最小化しながら、早期に実装着手が可能になります。

レビューの効率化

詳細設計書のレビューは、以下の観点で効率化できます。

レビューを効率的に進めるためには、まず観点を明確にすることが重要です。具体的には次のような観点でレビューを行います。

  • 設計の妥当性(アーキテクチャ、パフォーマンス)
  • 実装可能性(技術的実現性、工数見積もり)
  • 保守性(理解しやすさ、変更しやすさ)

また、レビュー方法についても工夫が必要です。効果的なレビューを実現するために、以下のような手法を取り入れましょう。

  • 机上レビューとウォークスルーの使い分け
  • 重要度に応じたレビューアの選定
  • チェックリストによる観点の標準化

ツールの活用による生産性向上

適切なツールの活用により、設計書作成の生産性を大幅に向上できます。

UMLツールを使用することで、以下のような効率化が実現できます。

  • クラス図、シーケンス図の自動生成
  • 図の再利用と一括更新
  • コードとの同期機能

文書管理ツールの導入により、次のような管理面での改善が期待できます。

  • バージョン管理
  • 差分表示
  • レビューコメントの一元管理

さらに、自動化ツールを活用することで、以下のような作業の効率化が可能です。

  • API仕様からの設計書生成
  • データベース定義からのER図生成
  • テストケースの自動生成

ただし、ツールに頼りすぎて本質を見失わないよう注意が必要です。ツールはあくまで手段であり、目的は品質の高い設計を効率的に行うことです。

詳細設計書の品質を高める5つのポイント

最後に、詳細設計書の品質を高めるための実践的なポイントを紹介します。

1. 読み手を意識した構成

詳細設計書は複数の読み手を想定する必要があります。

プログラマー向けに記載する際は、以下の点に配慮します。

  • 実装に必要な情報を過不足なく提供
  • 技術的な判断材料を明確に記載
  • 実装の自由度を適切に確保

レビュアー向けには、次のような情報を含めることが重要です。

  • 設計の妥当性を判断できる情報
  • 他機能との整合性が確認できる記述
  • リスクポイントの明確化

保守担当者向けには、以下のような観点で記載を充実させます。

  • なぜこの設計になったかの背景
  • 変更時の影響範囲が分かる記述
  • トラブルシューティングのヒント

2. 図表の効果的な活用

文章だけでは伝わりにくい内容は、積極的に図表を活用します。

効果的な図表を作成する際は、以下のような使い分けを心がけましょう。

  • 状態遷移図:複雑な状態管理
  • シーケンス図:システム間連携
  • ER図:データ構造
  • フローチャート:処理の流れ

ただし、図表も過度に詳細にする必要はありません。本質的な流れが理解できるレベルで十分です。

3. 具体例による説明

抽象的な説明だけでなく、具体例を交えることで理解度が格段に向上します。

【処理概要】
商品の在庫を複数倉庫から最適に引き当てる

【具体例】
商品A(必要数:10個)の在庫状況
- 東京倉庫:在庫8個(顧客最寄り)
- 大阪倉庫:在庫5個

引当結果:
1. 東京倉庫から8個引当
2. 大阪倉庫から2個引当
→ 配送コスト最適化のため、最寄り倉庫を優先

4. 変更に強い記述方法

将来の変更を見越して、変更されやすい部分は抽象化して記述します。

変更されやすい部分については、以下のような対応を行いましょう。

  • 具体的な数値(閾値、リトライ回数など)→ 設定ファイル参照
  • 外部システムのURL → 環境変数参照
  • ビジネスルール → ルールエンジン参照

一方、変更されにくい部分については、次のような内容を詳細に記載します。

  • 基本的な処理フロー
  • データ構造
  • システム間の役割分担

5. レビュー指摘の反映と履歴管理

レビューで指摘された内容は確実に反映し、変更履歴を管理します。

【変更履歴】
2024/11/15 v1.0 初版作成
2024/11/20 v1.1 レビュー指摘反映
  - 在庫引当の優先順位ロジックを追加
  - エラーハンドリングの詳細化
2024/11/25 v1.2 性能要件の追加

重要な設計判断については、なぜその判断に至ったかも記録しておくと、将来の保守で役立ちます。

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